2011年7月13日水曜日

アナリストJobの変遷その5:アクティビストファンド台頭時の末端アナリストの思い出など徒然に。

さて、前回で、中小型株ブーム、アクティビストブームの到来についての時代背景や一般的情報を幾らか書いたように思う。今回は、そう言った状況下でのアナリストJobがどう言ったものだったのか、筆者の経験等も交えながら、差し支えない範囲でぼちぼち呟いてみたいと思う。


○アクティビストファンドの下っ端の仕事内容など。

筆者は短期間であるが、いわゆるアクティビスト的な投資戦略のもとでリサーチの仕事をしていた事がある。まずはこの頃の思い出を幾らか書こうと思う。

さて、実際の所は「アクティビスト」だとイメージが悪いし事業会社が驚いてしまう。このため「リレーショナルインヴェスティング」等とちょっとインテリな響きで柔らかめな印象を受ける呼称を実際には使っていた。この手の戦略は、詰まる所は事業会社の経営陣に「こうしたら良いんじゃないですか」的な提案を行う投資戦略で、比較的少数の銘柄に、大量保有報告に出る位の集中投資を行い、事業会社側に提案を行い企業価値を上げる事で超過リターンを得ましょうと、まあそう言ったコンセプトのファンドである。

筆者がこの手の戦略に関わっていたのはアクティビストファンド初期〜序盤戦だった上、会社の方針として敵対的に過ぎるのは日本の風土に合わないからよそうと言った面もあった(現在も日本で生き残っている数少ないアクティビストファンドは皆この点踏まえたものになっているので、当時やや迫力には欠ける面もあったのだが、結果としては正しかったと思う)。

このため、筆者が関わっていたのは込み入ったプロキシファイトだの大規模な業界再編だのではなく、活動内容は比較的プリミティブなものであった。その点踏まえて以下の文章は読んで頂ければ幸いである。


当時下っ端アクティビストファンドアナリストの筆者がやっていた事はこんな感じ・・・。

当時下っ端アナリストの筆者のやっていた事はこんな感じだ。

まずは時価総額でスクリーニング。以前書いた通り、ファンドの運用額や経営改善の提案が出来得る規模感等から適切なサイズの会社を投資ユニバースとして列挙する。

その中から、当時お決まりだった「キャッシュリッチ」銘柄を抽出する。理想としては、本業では比較的強いブランドなりビジネスフランチャイズなりを持っていて損益計算書側ではそんなに問題がないのに、バランスシートにキャッシュが溜まっているとか、無駄に投資有価証券ばっかり保有しているとか、財テクやって失敗したとかでキャッシュの使い道に問題があるから株価が低迷しているとか、そう言った会社を探す事である。

あるいは、キャッシュリッチの逆で、負債が多すぎて倒産リスクが高いせいでエクイティリスクプレミアムが高すぎる会社にEquityを注入すれば倒産リスク後退で株主価値が上がるかどうかとか言う視点もあったように思う。その他、過去のビジネスの失敗で繰越損失があってしばらく税金払わなくて良い会社とか、利益剰余金がマイナスで配当払えないけど今後払えるようになるんじゃないかとかそう言った会社に注目する視点、言ってみればややディストレスト投資的なアプローチもあったように思う。

言ってみればまあ、一般のセルサイド・バイサイドがPLの業績予想による株価変動を中心に手掛けるのに対して、アクティビストの場合主にバランスシートの観点から会社を見て、付属的にPLを見て行く訳である。


○なぜアクティビストはバランスシートに注目していたのか。

なぜアクティビストはバランスシートに注目していたのかと言うと、理由は簡単で、バランスシートの改善を促す方が、PL改善を促すよりも金融屋にとっては簡単だからである。

金融屋が高々発行済株式総数の5%だの10%だの保有した程度で、パブリックな情報からの分析で、事業会社のPLを我々の卓越した能力だかMECEな提案だかで改善してやる等と言うのは金融マン(あるいはコンサル等)の傲慢である。実際にはこれを外部者が、眼に見えて株価に効く形でやるのは中々難しい。時間もかかる。事業は事業会社の内部の人間の方が当たり前だが良く分かっている。金融屋がやれるPL改善提案など、せいぜい余剰人員のリストラだの言った話がせいぜいである。

一方で財務面・バランスシートについては、当時の(あるいは今も一部の会社はそうかも知れないが)日本企業はまだ資本効率だとか、資本コストだとか、株主資本コストを上回るROEを出す事の重要性とか、そういう概念に基づいた効率的な運営を行っていない面も強かった。コーポレートファイナンスの話は一応金融マンの登場する余地の充分ある分野でもある。なので、主に金融屋の活躍の場である財務面・バランスシートの調達運用の観点から何か提案が出来ないかと言った発想がなされていたのである。

また、過小資本気味の会社(負債過剰、利益剰余金のマイナス、繰越損失)等の改善局面にBetするのは、株式をオプションと考えた時、ストライクプライス近辺(ストライクプライス=実質純資産0の時、実質債務超過するかしないかの境目と考えると分かり易い)のコールオプションをロングしてポジティブガンマベットするのに似ていたかも知れない。損失は最大で株券が紙くずになるまでであり投資額に限定される。一方で会社の復活/回復局面では(繰越損失がある場合)税金も払わなくて良いので株主の貰いが急速に改善する。また(過剰負債/過少資本等の場合)例えば第三者割り当てでエクイティ注入をすれば、希薄化のマイナス効果よりも倒産リスク後退によるエクイティリスクプレミアム急低下のプラス効果の方が大きくなる場合が時と状況によりあり、この場合もりもりと株主価値が改善する訳である。言ってみればモジリアーニミラーの定理の実務応用編である。つまりこう言ったディストレスト的投資アイデアにせよ、金融屋的な発想で取り組めるものだったのである。

まあこう言った所が、単純に要約すると当時のアクティビストの視点であった。


○話を当時の筆者のアナリストJobに戻すと・・・。

話を当時の筆者のアナリストJobに戻すと、ヤングな下っ端であった筆者はこう言った会社(主に小型~中型株位まで)をスクリーニングして、先ずは普通の取材の形でIRや財務担当役員位までにヒアリングして、DCF等のValuationを作り、上にパスするまでが仕事であった。イキナリ偉い人間が物々しく出向くより、最初の所では若造が可愛らしく「教えてください♪」的に取材する方が、話も引き出し易いし色々な意味で都合が良かったのである。

でもって、取材先では茶でも頂きながら事業内容や業界環境、財務面の議論等の話をIRや財務担当役員と行う。株主資本はタダでなくて資本コストがあるという事やROEの重要性についてどう思うか。不要なキャッシュは株主に返す事、休眠資産や不要な投資有価証券や不採算事業部門などの処分と言った考え方についてどう思うか。売上利益やその成長と言ったPLのマネジメントだけでなくバランスシートのマネジメントも株主価値を考える上で重要だと思うがどう考えるか、と言った事等を、MBAのファイナンス経典、お経さながらに説明しては反応を伺ってみる訳である。今考えると20代の若造にこんな事根掘り葉掘り聞かれる財務やIRは大変だなあと思うが、上場している限りこれはまあ仕方ない。

これで、IRや財務が「いや、うちはそういうのはお断りなんで」と言った様子であれば、他を当たる事になる。一方で、ちょうどIRや財務が興味を示していて、「いやーそろそろ株式市場の声をちゃんと聞くとか、株式市場にIRの声を適切に届けるとか、資産効率のマネジメントとか、大事だと思うんですよねえ。でも中々社内で聞いてくれる人がねえ・・・」と言った類いの対応であればチャンスである。言ってみればアクティビストファンドが財務・IRの声の代理になり、事業会社の財務IRのサポートを得ながら経営陣の説得を試みる事がし易いからである。こういう場合はある程度きちんとした産業分析や同業他社比較等普通のアナリスト的分析もして、一方でDCF等のValuationを、バランスシート改善せず、改善した場合などシナリオ別に作ってみて、割安感が見られればファンドの上司に回すのである。そしてマネジメントとの面談のセットアップやプレゼン資料の作成にかかる。

でもってトップ会談をやって、建設的な議論が出来れば投資を開始する(注)。現在残っているアクティビストファンドの投資プロセスがどうなっているかについては、筆者はその手の世界を離れて久しいので良く分からないが、当時に筆者が関わって居たファンドにおいては、こんな所が一般的な投資プロセスだったように思う。

(注:場合によっては多少株を保有してから議論のテーブルをセットする事もあったようにも思うが、事業会社側の心情も考えると議論してからが理想であった。プリンシパルの株主がエージェントの経営陣に意見するのは資本主義のルール上は勿論権利ではあるが、市場で株を買って突然「俺様株持ってんだ、話訊けよ」と言うのは、日本の社会においては特に「慇懃無礼」と取られがちであったし今もそうだと思う。)

但し経営陣との議論と言っても、増配しますとか自己株買いやりますとか余剰キャッシュ何とかしたいとかの言質を取る訳ではない。これをやったらインサイダー取引になってしまい、投資が出来なくなるので逆に困ってしまう。あくまで取材として、その延長で経営についての考え方や、財務についての考え方を聞く必要があった。この点は注意の必要な点であった(注)。

(注:ただ、どう言った情報をもってインサイダー取引に該当するかと言うのはとても曖昧で、慎重さが求められる所であった。日本の証取法では、インサイダー情報とはこれとあれを指します、それ以外は聞いてOKですときれいに明示されているのではない。「その他条項」と言って、有体に言えば「何か株価にとって大事そうだったらインサイダー適用され得る」的な面がある。この「その他」が、政治状況等によって、例えば小泉政権下のような緩く解釈されていた時期もあったり、村上ファンドの村上氏逮捕に代表されるように厳格に適用されたりといった具合なのである。そういう意味では、六本木ヒルズのオフィス棟・住居等を舞台に村上氏が新興経営者等…”六本人会”等と当時呼ばれた…と頻繁に会合して”各種活動”を展開していた事については、それが品が宜しかったかと言えばグレーゾーンだろうと言う評判は逮捕前の当時から同業者内ではあったにせよ、村上ファンドの村上代表には、同業者としては同情する面もある。)


○投資後のフォローアップはこんな感じだったかな・・・。

でもって、投資した後は、ニュースフローや決算や株価のフォローをしたり、足もとフォローアップ的な普通のアナリストの取材をしたりと言った一般的なアナリストの仕事に加えて、IRのやり方の改善提案であるとか、財務関係の勉強会や交流の場を作ったりであるとか、まあそういう活動を若手としてサポートする事になった。

筆者のような下っ端は、提案のためのプレゼン資料作り下データ作りの手伝いであるとか、パワーポイントの体裁整えだとか、更には印刷屋にセミナー用のパワポのハンドアウトを発注するだとか、この手の勉強会の当日の裏方や受付などやったりもした。これはバイサイドのアナリストのやる仕事としては多分珍しい類いの事で、当時は面食らった面もあった。

しかし若いうちにこう言う下仕事をきちんとやっておいて良かったように今考えると思う。セルサイドのぴしっと整ったパワポのプレゼンだとか、きちんと段取りの出来たセミナー等に対してちゃんと尊敬・感謝出来る程度には社会人としての常識が身に付いたように思う(一方でプレゼン資料のフォントの揺れとかレイアウトのちょっとしたずれ等にも敏感になり、ああこの作業者ルーラー使ってないなとかフォントをArialで統一してないなとかにも目が行くようになる訳だが)。また、調査やエクセルいじり以外の例えば”ハンドアウトの手配”、”印刷屋の手配”、”会の段取り”等の「いわゆる社会人的な普通の下仕事」も苦手なりに一応やっておいたのは、きちんと機能する社会人になると言う観点では結構良かったと思っている。

その他後日に例えばある程度ファンド側の意向に添うような事、例えば自己株買いや増配等発表してくれた際には御礼の手紙を書いたりもした。当たり前だがアウトサイダーとしてコンプラ遵守のもとで投資をしており、提案と言ってもあくまで取材の延長で議論の題材としてプレゼン等も搭載すると言う話である。このため別に事業会社側はファンド側の提案を守る必要等もなかった。結果として、実際ちゃんとこう言う事をやってくれるのかどうかは、アクティビストと言ってもまともな運営がなされているファンドであれば開示が出てからでないと分からなかったのである。株主還元改善の類いのプレスリリースが出ると嬉しかった事を記憶している。

株主総会についても普通の運用であれば殆ど参加しないが、この手の戦略の際は特段株主提案等行っていなくても筆者もお使いで総会に行って、投資先の財務に挨拶をして、総会の状況を上司に報告したりした。後はファンドの顧客への説明資料の作成等等細かい仕事が幾らかあった。

投資後の運用プロセスについては、投資先の株価が十分上がったり、逆にファンド側の改善提案をいつまで経ってもちゃんと聞いてくれないとかPL側・ビジネスモデルや事業環境そのものが全く想定外に悪化してしまう等あればExit。強制ロスカットポイント等はポジションサイズも非常に大きい事から設けない。筆者のような若手は上記のような下作業やお使いJobが中心で、売買判断にはノータッチであった。まあこんな感じであった。


○これらは、アクティビストファンドの「牧歌的」時代・・・。

さて、徒然にオチもなく当時の事を呟いてみたが、筆者がこの手の運用戦略に関わって居た頃は、上記の通りまだ比較的牧歌的な段階であったし、上記を満たすような投資対象も比較的豊富にあり、パフォーマンスも付いて来ていた頃であった。

またアクティビストのファンドの上層部には、経営陣にプレゼンしたり議論したりしてもサマになる感じの投資銀行部門やコンサル経験者等が概ね控えており、何とはなしに見栄えがしたものである。勉強会やセミナーを催しても、一般バイサイドとは異なりと言うかバイサイドにしては珍しくと言うか、何となしに当時華があったように思う。

更にはこう言ったファンドはその性質から、3年間等の解約ロックアップが付いた資金を主に受託していた。このため運用会社でしばしば散見される、中長期投資を謡って居ながら設定解約は3ヶ月毎なので結局近視眼的対応をせざるを得ないと言ったALM上の問題も生じて居なかった。

新聞・メディアでも日本のコーポレートガバナンスの改善と言った切り口でこの手のファンドが紹介されてもいた。事業会社と議論をしながら株主価値について考え、向上を目指すという面で資本主義・株式投資のダイナミズムを体感出来る投資戦略でもあった。

物事は全て上手く行くかに見えた。


○しかし・・・。

しかし祇園精舎のカネの声、諸行無常のこの業界、一時は多数のファンドや証券会社のプロップが試みていたこの手の投資戦略も、ほんの数年後には厳しい時を迎える事になる。だいぶ長くなってしまったので、この辺はまた次回にでも。

3 件のコメント:

  1. 匿名7/14/2011

    いやー、面白いですね。
    日本には、もう村上やアイカーンは出てこないんですかね??
    次回が楽しみです。

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  2. こぶた2/20/2012

    いつも楽しく読ませていただいています。
    スコットキャロン氏のいちごアセットはなんかは、日本のアクティビストの数少ない生き残りかと思いますが、いちごのような現在も運用を続けるフレンドリーアクティビストに対しては、どのようにお考えですか?

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  3. コメントありがとうございます。
    アクティビストやアナリストJobの変遷については、書く機会が無いまま過ぎてしまいました。
    こちらは機会があれば書きたいと思います。

    さて頂いた質問ですが、同業者さんの個別のファンドについての意見は差し控えたいと思います。
    とは言え一般論として言えば、腰を据えてきちんとした哲学を持って取り組まれていて、日本の文化・慣習に合わせたスタイルで、ブームが去った現在も大き過ぎない適切なサイズの運用資産にて安定した顧客基盤で運用されているファンドについては一定のプレゼンスを持ち続けるのではないかと思います。何卒宜しくお願いします。

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