2011年5月10日火曜日

たまには金融系の話で:アナリストJobの変遷(たぶん)その1

昨今さっぱりBlogのまともな更新が無かった。しかも元々は、後進の若手等に多少でも貢献できればと言う趣旨で書いていたブログなのに最近は殆どInformativeなエントリーを書いていなかった。グダグダした事をTwitterで呟くのが昨今の筆者のWeb活動の太宗になってしまい、微妙に反省している(しかしたいそう反省している訳ではない)。

そんな訳で、たまには学生さん~エントリーレベルのかた向けの金融関連の内容を書いてみようと思う。

○アナリストJobの変遷

今回は、恐らく何回かに分けて、題名の件、筆者の通算10ん?年のこの業界での株式アナリストJobの変遷について参考までに書いてみようと思う。時代は概ね90s後半〜2000年代初頭から始まる。これより以前の事については、もう少しシニアなかた(40s)の同業者に聞いて頂けると幸いである。

こう言った変遷を知っておく事で、学生さんやエントリーレベルの若手のかたにおいては、シニアと会話を合わせ易くなるかも知れないし、先人が通って来た試行錯誤をダイジェストで先に知っておく事で、試行錯誤を多少ショートカット出来る面もあるかも知れない。とは言えまあ参考程度の拙文ではあるが、興味のあられるかたはお付き合い頂ければ幸いである。


○まずは「定量化万歳期」から。

筆者がこの業界に入った頃(細かい所は伏せておくが概ね90s後半〜2000年代初め)は、90年代より徐々に日本の運用会社・バイサイドでもアナリストを雇うようになり、90年代の末頃にはバイサイドアナリストは既に職種として確立していたが質にはまだまだ恐らくバラツキがあった頃、概ねこんな位置づけの時期だ。

この頃、日本でもDCFモデルによる株式Valuationが徐々に勃興しつつあり、マニアックなモデルを作れると言う事はある意味誇りみたいな文化が確立しつつあった。つまりは、定量化万歳、モデル万歳、より詳細にモデリングをする事で、ここをいい加減にやっている市場参加者よりもアルファが取れるのではないか、差別化が効くのではないか、と言った事が志向されていたのである。

そんな訳で、筆者が新卒で入った某外資系バイサイドアナリスト職においては、DCFやその応用としてのDDM等の、キャッシュフロー予測に基づいたValuation Model、財務モデルの学習と言うのが入り口の重要な部分であった。


○財務モデルって?

モデルと言うのは大雑把に言えば、PL、BS、CF計算書を整合性を持ちながら予測して、大概はCAPMの教えに基づいて資本コストを計算して、現在価値に割り引く。でもってその株式の本源的価値、Intrinsic Valueを算出して、それより市場の株価が安ければ買い、高くなったら売ろう的な、まあこう言うものである。

売上は地域別や事業別にブレークダウンし、それを更に売上×マーケットシェアや単価×数量にミンチ肉のように、いやコンサル風に格好良く言うとMECEに分解し、予測を積み上げ、全体の売上予測をする。市況品が売上の場合は、例えば石油価格だの半導体価格だのの想定だのも作ったり、その想定を作るために将来の需給バランスの想定まで作ったりする。大体はまあ、数量×単価や市場規模(パイの全体の大きさ)×そのシェア・比率、そのちょっとした応用でブレークダウンしていく事で作成する。これだけで膨大なスプレッドシート数になったりもする。この作成過程で、調査セクターや企業についてそれなりのオタクになる事が出来る。

コストも固定費や変動費に分解したり、費目ごとに例えば人件費であれば想定社員数×1人当たり人件費等、これまた単価×数量や売上に対する%等で昨今話題のユッケの肉のように切り刻んでコスト予測を行う。減価償却費が定率法の場合はいちいち設備投資額の想定、既存資産、平均耐用年数等をスプレッドシートに入れていって定率法のカーブを適用して減価償却費の予測を行う。

営業利益以下でも、例えば金利の支払いについて将来の設備投資予想やらも踏まえた借り入れニーズまで予想して、更には金利の想定まで置いて予想を行う。特損についても、例えば小売のように店舗のスクラップが定常的になされる場合など予測可能なものというのはあり、こういった費目については出店・閉店の計画予想を作ったうえで店舗当たりの閉店コストを過去実績等から想定して予想を作る事が出来る。これでやっとPLの予想の完了だ。

更にはB/Sの予測も行う。売掛金や在庫の推移。売上予測の一定率と言った形で取ることが多いが、例えばヒアリングの結果、積極的な在庫削減策や運転資金の改善策を取っていて将来改善が予想される際はそれも反映する。後は上述の通り設備投資や減価償却の予想を作る事で固定資産の予想もする。負債側も、借り入れ・資本調達ニーズ等を反映させる。

そして、キャッシュフロー計算書の予測だ。PL、BSの予想が出来る事で、当期利益・運転資金増減等などで営業CFの予測が作られ、設備投資予想で投資CFの予測が作られ、残りがFCFだ。借り入れ返済を先にやって、更に残りが株主に属する配当。

で、これを作ってみるとわかるがPLとBSとCFはばらばらに成り立っているのではなく全部体系的に繋がっており、それをエクセルのスプレッドシートに落とし込むと関数が循環参照する事になる。これをExcelの自動繰り返し計算100回とかで設定しておけば値が収束するのである。随分な凝りようだ。でもって、その「歪み・残余」については、この商売やっているかたでないと分からないかも知れないが「Excess Cash」と言う費目で吸収する。これにより、その企業がキャッシュバーンするのか、キャッシュ余りになり株主還元の余地が増えるのかがわかるのである。このほか、例えばオペレーティングリースをキャピタライズしてみたり、企業ごとの会計制度の違いがValuationの差に出てしまわないように各種調整を施したりもする。まあ取り敢えず、1社評価するのに随分な凝りようである。ヘッジファンドでびゅんびゅんやっている今の筆者がこれを調査ごとに全部やったら1日が100時間位あっても足りないだろう。

で、キャッシュフローの予測が出来たら、次は割引率の想定である。CAPMの経典の通りにリスクフリーレートとベータを取って株主資本コストを出したりする。負債側は概ねその会社の借入返済の過去何年かの平均利率を取ったり直近の利率を取ったりする。

こういう予想を巨大なスプレッドシートを作成して延々作りこみ、更には外資系運用会社の場合だとグローバルにアナリストを配置して皆同一のフレームワークの元で世界の主要企業のヴァリュエーションを算出した先に、その企業の「本源価値」を算出する事が可能で、株式の割安割高が発見可能で、アルファがあると、当時信じられていたようなきらいが「アナリスト村」にはあったように思う。MBAのコーポレートファイナンスやValuationのお授業を、純朴に株式運用に適用したような感じだ。

とはいえ当時では日本語でValuationについてExcelのスプレッドシートレベルまで詳細に記載した書籍が巷に殆どなかった。エクセルだってWin95が出てから広く使用されるようになった案配だったように記憶しているし、洗練されたスプレッドシート作りのTip等も今程は普及して居なかった。従って、日本人でDCFのモデル作成が出来る人間と言うのはアナリストとしてそれなりに付加価値たり得たのである。こういうのが流行った時代、DCFのValuationが作れる事がアナリストとして差別化要素だった時代と言うのがあったのである。

筆者も最初に入った外資系運用会社で、上述のような事を事細かに記載してある英語で100ページ以上の「Valuation Manual」をポンと手渡され、じゃあ直ぐに作れるようになっといてね等と言われたものだ。このマニュアルを見ながら、上司のシニアアナリストが作成した巨大なValuationモデルのメンテナンスを行ったり、夜分にExcelの巨大なスプレッドシートのリンク、リンクのリンク、またリンク、IFの入れ子だのVLOOKUPだのと言ったのを辿って行って研究したりする中で、OJTで自分でもスクラッチから作成出来るようにしていった訳である。まあ、入り口でアナリストの基本動作としてこう言うのをキチンと学べたのは有難かったように思う。MBAで習う事を給料貰って仕事しながら学べたと言う点においても悪くはなかった体験である。現在においても、株の調査だとかコーポレートファイナンス系の職種をするのであれば、入り口としてこう言うのは経ておいて良いとは思う。昨今は日本語のテキストも沢山ある(末尾に参考書籍を記載)。

こうやって書いているといやーお疲れなこったなぁと今となると思うものだが、こんな時代もあった訳である。長くなってしまったので、続きはまたの機会にでも・・・。


(付記:参考書籍)

2 件のコメント:

  1. 匿名5/11/2011

    もしよろしければ、一社だけでよいので、スプレッドシートをいただけないでしょうか??勉強に使いたいです。

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  2. 残念、それは一応仕事道具なので非開示でお願いします。昨今ですと、TACさんとかでも確かモデル作成講座の類いがあったと思います。また、過去の財務データがWebサイトに長期間分まとめて落ちている銘柄、例えばファストリ

    http://www.fastretailing.com/jp/ir/financial/graph.html

    等を使って、後は上記参考書籍等を片手にトライされてみる事をお勧め致します。何卒宜しくお願いします。

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